読モをリリース

ある大都市で若い人に絶大な人気を誇る地場のメガネブランド。
オリジナルデザインのモデルが売りで、デザインは社長自らがやっている。
何色もラインナップのあるモデルでは、一人で全色を買いそろえてコンプリートを自慢するお客さんもいるほどの人気のブランドだ。
この店は直営で複数の店舗を展開している。
人通りの多い場所にある最も客数の多い店では、店内の璧がメガネ店には珍しい一面の褐色。
店内には瓦屋根がおり中国家具などもレイアウトされている。
一風変わっているが、これがこのブランドの持つ雰囲気によく合っていて客層の中心は、クラブに通うような人と、そういう人たちのファッションやライフスタイルにあこがれを持っている人だ。
それもあって同社ではクラブイベントを主催することもある。
そのときは社長自らもDJとなってターンテーブルを操る。
このブランド、いろいろと真似られることが多い。
オリジナルデザインのメガネが、そっくりコピーされたこともある。
ある日、近くの店が同じような内装に改装していたこともある。
取り扱っているヨーロッパブランドの商品を、理由あって五〇%OFFにしたときは、近くの店が同じブランドを五二%OFFにした。
さらに、彼がクラブイベントを頻繁に開催しファンを増やしていたころ、しばらくするとその街ではなぜかメガネ店主催のイベントが増えた。
このような話は他の業界でも多い。
この例は同業者間のものだが、こういう例もある。
あるビジネス書に、強烈なインパクトのある、広告の成功事例が載った。
それは広告のキャッチコピーを変えただけで反応が十倍に高まったというものだった。
そのコピーはこういうものだ。
「まだムダ金を○○に使いますか?」その後、この本がベストセラーになるにつれ、このキャッチコピーが業種を問わず、「○○」の部分を変えただけで、さまざまな場面で見られるようになった。
このコピーがそぐわない、あるいは効果的でない多くのケースも含めて、である。
実は私はこの本の著者と懇意だが、彼がこの事例を掲載した本意は、黙ってこのコピーさえ使えば、どんな業種でもたちまちうまくいくということではもちろんない。
しかし、私は長い間ビジネスの現場に関わっているが、実際こういう例は枚挙にいとまがない。
ただ、こうしたことが起こるのも無理はない。
先にお話したように、かくいう私もかつて同じことを行ってきた。
これは「こうすれば、こうなる」という時代の名残なのだ。
工業社会のフレームによって起こっているのだ。
しかし、われわれが仕事をしているのは「これをやれば必ずこうなる」という決まりきった解答も「誰もがこれさえやればうまくいく」という単一の解もない社会なのである。
感性社会の二つ目の特徴は、「今日の解は明日の解ではない」ことだ。
そういう意味でも、他店で売れているものをそのまま何も考えずに仕入れたりしてはいけない。
ライバル会社がヒット商品を出したからといって、そのまま何も考えず類似商品を作ったり、近所の店が流行っているからといって、そのままその内装や広告を真似たりするのも、またまた、この社会に適さないやり方であることがわかる。
何度も言うが、今の社会は変化が速い。
それは情報社会の顕著な特徴であるが、その結果、今日の解は明日の解ではないという状況が如実になる。
その影響でよく知られていることは、提供する商品の寿命がどんどん短くなっていることだろう。
工業社会の典型的商品である自動車が、まずそうだ。
古くからモデルチェンジというものはあるが、モデルチェンジのサイクルが早まっているのは感性社会になったがゆえである。
私はヴィンテージカーが好きで、あまり聞き覚えのない車種と思うが、バンテンプラスプリンセスという車を持っていた。
イギリス車で、一九七一年型だった。
さらに数年前にはオースチンヒーレースプライトという車を買ったが、こちらは一九六四年型。
さすがに乗りこなすのが難儀で手放した。
この時代の車は生産中止になるまでほとんどモデルチェンジしないものも多かった。
今私は、私の個人的用語でいう「現代車」に乗っている。
今のミニクーパーだ。
ミニもすばらしい車だが、考えてみると旧型のミニは生産が終了するまでの長い問、ほとんど変わらなかった。
あれでもモデルチェンジはしていて、マニアが見れば第何期かわかる。
しかしぱっと見はほとんど変わっていない。
工業社会も変化はしていたのだが、業界に長いT氏、が言うように、変化が止まっているとみなせるほどに遅かったので、それほど問題にはならなかったのだろう。
だが、今はそれを変えていかざるをえない状況である。
もちろん事は車のモデルチェンジの問題だけではない。
さらには商品の開発サイクルの問題だけでもない。
ある老舗の和菓子メーカーの社長がインタビューに答えていたのを見たことがある。
そのときインタビュアーが、たぶんまったく悪気はなく、「ずっと同じ味を、まったく変えず守ってこられたんですね」といったところ、その社長は眉をしかめた。
そして自社独自の伝統の基本は守りますがと前置きをした上でこういった。
「ずっとまったく変えていなかったら、うちはつぶれてますよ」小売業、たとえば私がかつて勤めていた婦人服の売り場でもそうだ。
かつては「昨年よく売れたから」というだけの理由で、バイヤーが前年とほぼ同じ商品を投入してきた。
が、今はそうしても今年売れるとは限らないし、たいがい前年の例に反して売れ残ってしまうだろうことに、多くの業界関係者も異論がないのではないだろうか。
サービス業の現場でも同じだ。
焼肉のチェーン店「牛角」は、私も普段利用させてもらっているが、いつも感心するのは卓上に置いてあるメニューが実に頻繁に変わることだ。
といっても、メインは肉である。
創作料理の店などと違って、変化はつけにくいだろう。
しかしデザインやレイアウトを変え、デザートやご飯ものなどを入れ替えている。
季節感を出し、限定メニューも加えている。
コストも手間もかかるだろうが、こうしたことを繰り返し続けていることは、今の社会の特徴をよく知り、その変化に敏感であるということではないだろうか。
このようにあらゆるビジネスの現場で、今日の解は明日の解ではないのである。
三つ目の特徴は、「A社の解はB社の解ではない」ということだ。
つまり、他社の解は自社の解ではないということである。
まさにここでも、他店で売れているものをそのまま何も考えずに仕入れたりしてはいけないということだ。
少々くどいが、ライバル会社がヒット商品を出したからといって、そのまま何も考えず類似商品を作ったり、近所の店が流行っているからといって、そのままその内装や広告を真似たりするのも、この社会に適さないやり方なのである。
講演や著書でしばしば取り上げてきたある埼玉県の酒販店の事例がある。
年末年始用の日本酒の販売で、毎年計十八本を仕入れても消化できていなかった店が、ある年売り上げを伸ばし、前年比三十倍の数量(六百本)を予約完売した話だ。
翌年には千本の大台に乗せ、蔵元の地震被災をはさんで、出荷が正常化した今日では千二百本を売っている。
もちろん、何の工夫もなくこのような成果が得られるはずもない。
例年わずか十八本が完売できなかった銘柄である。
彼は普段顧客に送っているDMを工夫するなどして、それまで行っていなかったアプローチをさまざまに行った。

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